月が綺麗ですね
突然だが、この二つの会話を比べてみて欲しい。
A「今日の夜空どう?」
B「満月が引くくらい綺麗」
A「私って綺麗?」
B「満月が引くくらい綺麗」
お分かりいただけただろうか。
Bの返答は寸分違わず同じなのに意味が全く異なっている。
一つ目の会話でのBの発言は「満月が(私が)引くくらい綺麗」ということだ。
ところが二つ目の会話では「満月が引くくらい(君が)綺麗」という意味合いである。
語順と省略、擬人法がなせる業である。
日本語って面白いね。
うつへの序章
さて、今回私は別に遠回しな口説き文句をご教授しに参ったのではない。
今日は、私がうつになるに至った経緯、その最初の部分をお話ししようと思う。
受験期にさかのぼる。
当時私は、T大学の文学部系を志望していた。
……もうなんか伏せ字にするのもバカバカしいのだがT大学である。
断固としてT大学だ。
私は高校の時分にはそこそこ優等生で通っていた。
なのでT大学を志望するのはまあ自然な流れだったのだ。
さて、同じくT大学を志望する友人がいた。
こいつは顔がゆで卵然とした形なのでボイルドと呼ぼう。
ボイルドは生徒会長もやるやつだったが、そこまで成績優秀というわけでもなかった。
なので、私と同じ志望だと聞いた時には驚いた。
だが、同じ大学を目指す友人ができたのは嬉しいことだった。
私の高校では、三年生になるとT大学を志望するクラスが文理二つできて、私とボイルドはその文系クラスに所属していた。
ボイルドは人付き合いのいいやつでクラスでも話し相手が多かったが、私はそういったことが苦手で、ボイルドぐらいとしか話さなかった。
この時点で既に私は孤立していたと言える。
言ってしまうと実はそれ以前から孤立は始まっていたのだが、それはまたの機会だ。
孤独であることのほかに、私には問題があった。
勉強に身が入らないのである。
やる気がないと言われればそれまでだが、一応の理由があった。
私は以前から漠然と、小説家を夢見ていたのである。
小説家になるのなら別にT大学に入る必要はない。
だが、将来のことを考えると、小説家でやっていけなかった場合、T大学に入っておいたほうが良いのではないかとも思っていた。
その勤勉を勧める天使と怠惰を勧める悪魔の戦いは、いつも悪魔が優勢だった。
真面目、優秀と言われていた私はいつしか怠惰になっていた。
そしてどうにかなるだろうという慢心が、心を蝕んでいった。
受験直前期にボイルドや友人と話をして、ボイルドがよく勉強しているというのを聞き、若干の焦りは芽生えたが、怠惰に変わりはなかった。
そうして、受験を迎えた。
ボイルドは落ちたかもしれないと不安がっていた。
私は、よく分からなかった。
聡いみなさんならもう先が読めるだろう。
合格発表の日、ボイルドは真っ先に結果を見た。
受かったと言った。
それはそれは大層な喜びようで、みんなで回転寿司に行った。
私はみんなの前で結果を見るのが嫌で、散々待って家に帰ってから見た。
私の番号はなかった。
だがそれでも、その後すぐに私がうつになることはなかった。
私がだんだんとおかしくなっていったのは、受かっていたK大学に入ってからである。
今日は疲れたので、この辺で終わりにしよう。
明日また続きを書こうと思う。
それではまた。
月が綺麗ですね。